バッサーが考える多機能工(1)

  近年、「多能工」という言葉が注目されています。複数の異なる職種や工程をこなせる人材のことを指しますが、一つの専門分野だけに特化するのではなく、幅広い知識とスキルを身に着け、状況に応じた柔軟な対応ができることを意味します。複数を担えることが、工程間の流れ、チーム間の連携をスムーズにし、深刻な人手不足を抱える建設業(他業界も同様)にとって、工期短縮・品質向上へ繋げる頼もしい救世主という訳です。例えば大工が次工程の塗装工事を行ったり、自ら使用する足場の組立・解体を兼任することなどが、それに当たります。

  弊社が日々従事している土木工事の現場でも、ひびわれ補修、断面修復、剥落防止など、主だった補修工事の全工程を担う多能工の存在は見受けられます。しかし、これらは対象の下地コンクリートがある程度健全であることが条件とも云えますが、左官技能を具えた者が一連の流れのなかで進めることは充分可能であり、兼任する人材は多く一括工事としての扱いが一般的です。

  この場合の健全な下地とは、漏水が無いことを指していますが、古い構造物、殊に地下施設では漏水の無い状態など殆どありません。漏水補修、とくに止水となると、左官技能で対応できる事象ではありません。最も難易度の高い補修として、一線を引かれる分野である一方、対応可能な人材が乏しいのが実状です。視点、技能、取組み方(道具・材料、手法)など全くの別モノであるが故に、一筋縄ではいきません。故に他の職種と兼任する人材は稀です。その為、漏水が発生する現場では、あらゆる補修が着工不能となる為、止水専門業者の事前参入が不可欠なのです。

   このような現状を鑑みれば、もともと止水工に端を発した弊社が、そこに勝機を見出すことは至極当然の流れです。あれから十数年、両セットを兼任し実績を積上げることでアピールして参りました。当時は、新設工事で予算外の竣工対応に追われる止水工でしたが、いまは補修工事に明確に組込まれた計画のもと、一括工事として認知されるようになりました。有意義な多能工として扱われるようになる一方で、より強度を期待できる接着剤の高圧注入を新たな止水工として実用化し、現状の断面修復工に更なる相乗効果を生み出そうと、取組みを継続しています。

  特別な事ではなく、目新しい事でもなく、自らが出来る事に既存の組合せを掛け替えるだけで、新たな発掘に繋がることが有ります。これまでの慣例に囚われすぎない意識、もっともっと補修水準を高めたいという意識があれば、これまで気付きもしない何らかの明かりがさしてくることが有ります。弊社は、そんなことを大事にしているに過ぎません。

2025年 8月 

                                       株式会社 バッサー

代表取締役   佐藤 隆

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